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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)5023号 判決 1983年9月30日

原告

宇佐美セナ

被告

北海交通株式会社

ほか二名

主文

被告らは原告に対し、各自、金六六三万九九〇四円及び内金六〇三万九九〇四円に対する昭和五六年六月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金九一三万九五二六円及び内金八三〇万九五二六円に対する昭和五六年六月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和五六年六月六日午後八時五〇分ころ、苫小牧市新中野町三丁目六番一号先の信号機の設置されていない交差点(以下本件交差点という)内において、同交差点を東から西に向つて進行していた訴外獅畑英二運転にかかる普通乗用自動車(室五五あ七三一四、以下甲車という)と、同交差点を南から北に向つて進行していた被告釼谷寿計運転にかかる普通乗用自動車(札五五は一〇三四、以下乙車という)が出合い頭に衝突した。原告は、右衝突時、タクシーである甲車に乗客として塔乗していた。

2  原告の負傷

(一) 原告は、本件事故により左上腕骨々折、右鎖骨々折、左恥・坐骨々折、左第二、第三、右第一肋骨々折、右殿部皮下血腫、顔面外傷、脳震盪の傷害を負つた。

(二) 原告は、右傷害の治療のため苫小牧市立総合病院に次のとおり入通院した。

(1) 入院

昭和五六年六月六日から同年七月二九日まで、同年一一月一〇日から昭和五七年二月一六日まで、合計一五三日。

(2) 通院

昭和五六年七月三〇日から同年一一月九日まで、昭和五七年二月一八日から同年七月二六日まで、通院実日数一二七日。

(三) 原告は、昭和五七年七月二六日、症状が固定したが、肩関節の運動制限及び局部に頑固な神経症状を残す後遺障害があり、右は、後遺障害別等級表の一二級に該当する。

3  責任原因

(一) 被告北海交通株式会社(以下被告北海交通という)は、甲車を保有し、これを自己の営業のために運行の用に供していた(自賠法三条)。

(二) 被告小池壽男(以下被告小池という)は、乙車を保有し、自己のため運行の用に供していた(自賠法三条)。なお被告小池は、昭和五六年六月六日午前三時ころ、札幌市南区澄川四条三丁目澄川ベンダーシヨツプ前路上に、無施錠、エンジンキーをつけたまま長時間放置していた乙車を、被告釼谷寿計(以下被告釼谷という)に盗まれて本件事故に至つたのであるが、乙車を保有する被告小池は、同車を管理するにつき、自動車を離れるときはその車両の装置に応じ、その車両が第三者に無断で運行の用に供されることがないようエンジンキーをはずすことはもとより、ドアに施錠する等必要な措置を講ずべき義務があるのに(道路交通法七一条の五の二号)、右管理義務を全く怠り、エンジンキーをつけたまま無施錠の状態で放置していたのであるから、第三者の運転を容認していたものというべきであり、したがつて本件事故当時も乙車の運行支配を失つていなかつたというべきである。

(三) 被告釼谷は、乙車を運転して本件交差点を進入するにつき、信号機が設置されていないのであるから一時停止するか徐行するなどして左右の安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と同交差点に進入した過失により本件事故を惹起させた(民法七〇九条)。

4  原告の損害

(一) 医療関係費

(1) 治療費 金一八八万一五八〇円

但し、昭和五六年六月六日から同年八月三一日までの分。

(2) 文書料 金六二〇〇円

(3) 付添看護並びに家事世話料 金八八万九三二〇円

(イ) 付添看護費

昭和五六年六月六日から同月一九日までの間の五日間、一日四〇〇〇円の付添看護費を要した。

(ロ) 家事世話料

昭和五六年六月六日から同年九月八日までの九五日間及び同年一一月一〇日から昭和五七年二月一六日までの一〇〇日間の家事世話料として合計金八六万九三二〇円を要した。

(4) 通院交通費 金一三万一四五〇円

原告は通院中タクシーを利用せざるを得ず、昭和五六年七月三〇日から昭和五七年七月二六日まで、通院実日数一二七日分のタクシー代である。

(5) 入院雑費 金一〇万七一〇〇円

入院日数一五三日、入院一日当りの雑費七〇〇円として計算。

(二) 休業損害 金二五三万六七六八円

原告は、本件事故当時明治生命苫小牧支社の保険外務員として稼働しており、昭和五五年度の年収は二二二万五七二二円(一日平均六〇九八円)であつた。したがつて本件事故時から症状が固定した昭和五七年七月二六日までの四一六日間の休業損害は金二五三万六七六八円(六〇九八円×四一六日)である。

(三) 逸失利益 金三九二万七一〇八円

原告の前記後遺障害(一二級相当)による労働能力喪失率は一四パーセント、就労可能年数一八年、年収は二二二万五七二二円であり、ホフマン方式により中間利息を控除して、逸失利益の現価を算出すると、金三九二万七一〇八円となる。

2225722×0.14×12.603=3927108

(四) 慰藉料 金三六〇万円

(1) 入通院分(入院五か月、通院約九か月) 金一九〇万円

(2) 後遺障害分(一二級) 金一七〇万円

(五) 弁護士費用 金八三万円

(六) 損害の回復

(1) 自賠責保険から 金四四九万円

(2) 被告北海交通から 金二〇万円

(3) 被告釼谷の父から 金八万円

合計 四七七万円

5  よつて原告は被告らに対し、4の(一)ないし(五)の損害金合計金一三九〇万九五二六円から4の(六)の金額を控除した残金九一三万九五二六円と弁護士費用を除く内金八三〇万九五二六円に対する昭和五六年六月七日(本件事故の翌日)から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告北海交通)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の(一)のうち原告が左上腕骨々折、右鎖骨々折、左恥・坐骨々折の傷害を負つたことは認めるが、その余の傷害については不知。同2の(二)のうち原告が昭和五六年六月六日から同年七月二九日まで入院し、同年七月三〇日から同年一一月九日まで通院(実日数一〇三日)し、同年一一月一〇日から昭和五七年二月一七日まで再入院したことは認めるが、その余は不知(但し、昭和五六年六月六日、七日の入院先は吉川整形外科病院である。)。同2の(三)は争う。

3 同3の(一)の事実は認める。

4 同4の損害額についてはすべて争う。但し、同4の(六)の事実は認める。

(被告小池)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の各事実は不知。

3 同3の(二)の主張は争う。被告小池は乙車を保有していたものであるが、昭和五六年六月六日午前三時ころ、札幌市南区澄川四条三丁目澄川ベンダーシヨツプで買物するため、同店前路上に乙車をわずか数分間停車している間に被告釼谷に窃取され、直ちに警察に届出をなした。被告小池が乙車を離れたのは時間的、距離的にみて極めてわずかであり、また路上とはいつても深夜三時であつて通行人等はほとんど考えられない状況であつたのであるから、被告小池に乙車の管理につき過失があつたとはいえず、ましてや窃取目的の第三者に乙車の運転を許容していたものではない。被告釼谷においては、もとより返還の意思はなく、右窃盗後本件事故に至るまで約一八時間にわたり、数人の友人を乗せ、シンナーを吸うなどして乙車を自己の思うままに乗り回し、その挙句の本件事故である。以上のような状況のもとにおいては、本件事故時には、被告小池は乙車に対する運行支配・運行利益を安全に失つていたとみるべきであり、被告小池には自賠法三条の責任は発生しない。

4 同4の損害額はいずれも不知。但し同4の(六)の事実は認める。

(被告釼谷)

請求原因1の事審は認め、その余の請求原因事実はすべて不知、もしくは争う。

三  被告北海交通の抗弁(免責)

本件事故は、被告釼谷の一方的な過失によつて発生したもので、甲車を運転していた訴外獅畑には何ら過失がないので、被告北海交通は本件事故による責任を負わない。

四  抗弁に対する認否

被告北海交通の抗弁は争う。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

一  昭和五六年六月六日午後八時五〇分ころ、苫小牧市新中野町三丁目六番一号先の信号機の設置されていない交差点内において、同交差点を東から西に向つて進行していた甲車と、同交差点を南から北に向つて進行していた被告釼谷運転の乙車とが出合い頭に衝突したこと、右衝突時、原告はタクシーである甲車に乗客として搭乗していたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで被告らの責任について判断する。

1  いずれも成立に争いのない甲第一二ないし第一四号証、同第二一号証、同第二六、第二七号証によると、本件交差点は、市道と市道がほぼ直角に交差する交差点であるが、甲車が進行していた東西方向の道路は幅員が七・一メートル、乙車が進行していた南北方向の道路は幅員が六・一メートルであつて、東西方向の道路は、右交差点内にも中央線の道路標示がえがかれていること、同交差点の見通しについては、東から西に進行する場合、交差点の東南角に建物があるため交差道路の左側の見通しは悪く、南から北に進行する場合、同じ建物のため交差道路の右側の見通しは悪いこと、速度規制については、東西方向の道路が毎時四〇キロ、南北方向の道路が毎時三〇キロとそれぞれ規制されていたこと、本件交差点は夜間時において街灯等が少ないため交差点内は暗かつたこと、甲車を運転していた訴外獅畑は、本件事故前、毎時約五〇キロの速度で甲車を進行させ、本件交差点の中央付近から約一三・三メートル手前で、交差道路を左側から進行してきた乙車のライトに気付いたが、自車進行道路が優先道路であることからそのまま進行し、交差点に入つたところ、乙車が甲車の左側に衝突したこと、乙車を運転していた被告釼谷は、本件事故前、交通閑散に気をゆるし、毎時約六〇キロの速度で乙車を進行させ、本件交差点の中央付近から約一六・三メートル手前で交差道路を右側から進行してきた甲車のライトに気付いたが、一時停止の標識がなかつたことから自車進行道路が優先道路であると誤信してそのまま進行し、交差点に入つたため、甲車の左側部に乙車の前部を衝突させたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定した事実によれば、甲車が進行していた道路は、乙車が進行していた道路に対し優先道路の関係にあり、かつ、乙車進行方向からみて右方の見通しが悪い交差点であつたのであるから、乙車を運転していた被告釼谷は、徐行もしくは一時停止をして、交差道路の左右の安全を確認して交差点に入るべきであつたのに、これを怠つて本件交差点に進入したものであるから、被告釼谷には本件事故につき過失があることは明らかである。したがつて同被告は民法七〇九条により後記原告の損害を賠償すべき義務がある。

3  請求原因3の(一)の事実は当事者間に争いがないところ、被告北海交通は、本件事故は被告釼谷の一方的過失によるものであり、甲車を運転していた訴外獅畑には過失がないので同被告は本件事故の責任を負わない旨主張する。なるほど、前記認定の事実によれば、甲車の進行道路は本件交差点内にも中央線がえがかれているのであるから乙車の進行道路に対して優先道路の関係にあるのであつて、乙車の運転者には甲車の進行を妨害してはならない義務があるのであるが、本件交差点は夜間において暗いのであるから甲車進行道路の中央線を交差道路の車両運転者が気付かないことも予想され、信号機により停止が命じられる場合のようには必ずしも交差道路の運転者の徐行、停止が期待できるものではないのであり、しかも甲車を運転していた訴外獅畑は、交差点中央付近から約一三・三メートル手前で乙車のライトに気付いたのであるから、このような場合、訴外獅畑としては適宜速度を減速する等して交差道路を進行してくる車両の動静に注意を払いつつ進行すべきであるのに、訴外獅畑は、指定制限速度を一〇キロ超過する毎時約五〇キロの速度で漫然と本件交差点に進入したものであるから、本件事故に関して無過失であつたとはいい難い。したがつて被告北海交通の免責の主張は採用し難く、同被告は自賠法三条により原告の後記損害を賠償する義務があるものといわざるをえない。

4  そこで被告小池の責任について判断する。被告小池が乙車の保有者であつたことは当事者間に争いがないところ、被告小池は、乙車は被告釼谷に窃取されたものであり、本件事故当時乙車の運行支配、運行利益は被告小池になかつた旨主張する。よつて検討するに、前掲甲第二六号証、成立に争いのない甲第二五号証、被告小池壽男本人尋問の結果によると、被告小池は、昭和五六年六月六日の午前三時ころ、空腹を覚えたため、札幌市南区澄川四条三丁目にある澄川ベンダーシヨツプ(無人販売店)で食事をしようと考え、乗つていた乙車を同店前路上に駐車したが、食事が済み次第乙車に戻るつもりであつたため、エンジンはかけたままにしておき、しかも、ドアをロツクすることなく乙車を離れ、前記ベンダーシヨツプでそばを食べ、数分後、駐車位置に戻つてみたところ、乙車は既に被告釼谷に盗まれており、直ちに最寄りの交番に乙車の盗難を届けたこと、他方被告釼谷は、前同日の午前三時近くまで友人宅で遊び、札幌市南区澄川二条一丁目にある自宅に帰る途中、前記ベンダーシヨツプ前路上に、エンジンをかけたままの乙車を発見したが、周囲に人影がなかつたため、乙車を運転して苫小牧の友人宅へ行こうと考えるに至り、無施錠のドアを開けて乙車に乗り込み、乙車を運転して苫小牧へ向つたこと、前記ベンダーシヨツプの近くには他に商店等はなく、午前三時ころといつた時間の関係上同店前道路を通行する人影はほとんどない状況であつたこと、被告小池が前記ベンダーシヨツプ内で食事をしていたとき、同店内には他に二、三人の客がいたが、同店入口には半透明のドアがあつて、店内からは駐車してある乙車自体は見えなかつたこと、乙車を窃取した被告釼谷は、その後乙車を運転して苫小牧に行き、女友達を誘つて苫小牧市内をドライブしたり、途中で盗んだシンナーを吸うなどして時を過し、同日午後六時ころからは、他の友達も誘つて支笏湖までドライブをし、その帰途、同日午後八時五〇分ころ、本件事故を起すに至つたものであること、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、被告小池は、ベンダーシヨツプで食事をするため、店内からは監視できない路上に、エンジンをかけたままロツクもせず乙車を放置したため、偶々通りかかつた被告釼谷に乙車窃取の犯意を抱かせ、乙車を窃取されたものであるが、当時乙車を駐車させた路上には人通りもほとんどなく、被告小池はもとより、第三者による事実上の監視も期待できない状況であつたのであるら、かかる路上に車両を駐車する者は、たとえ食事をする間の短時間とはいえ、エンジンキーを抜きとり、ドアをロツクする等して、他人に容易に車両を運転されることを防止すべき義務があるのであつて、本件の如くエンジンをかけたままドアのロツクをすることなく公路上に乙車を駐車させた被告小池には、主観的には第三者に乙車の運転を許容したものではないにしても、客観的には乙車の運転を容認していたと評価されてもやむをえない程の管理上の落度があつたものというべきであり、このよう場合には乙車の保有者たる被告小池の乙車に対する運行支配は、被告釼谷の窃取により失われないものと解するのが相当である。そうして本件事故は、乙車窃取後約一八時間後に起きているが、窃取者の運転継続により惹起されていることに鑑みると、右程度の時間の経過は結論に影響しないと解する。したがつて、被告小池も自賠法三条により原告の後記損害を賠償する義務があるものといわざるをえない。

三  そこで原告の受けた損害につき検討する。

1  原本の存在並びに成立につき争いのない甲第三号証の一ないし四、同第二九号証、同第三一ないし第三三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故により、左上腕骨々折、右鎖骨々折、左恥・坐骨々折、左第二、第三、右第一肋骨々折、右殿部皮下血腫等の傷害を受け昭和五六年六月六日、吉川整形外科病院に入院し、同月八日、苫小牧市立総合病院に転院し、同年七月二九日まで同病院で引き続き入院治療を受け、同年七月三〇日から同年一一月九日までは同病院に通院し、同年一一月一〇日から昭和五七年二月一六日まで再び苫小牧市立総合病院に入院し、同年二月一七日から通院治療を受けていたが、同年七月二六日、同病院の医師によつて症状固定の診断がなされたこと、この間の入院日数は吉川整形外科病院、苫小牧市立総合病院を併わせて一五三日間であり、苫小牧市立総合病院への通院実日数は一二七日であること、右症状固定時の原告の症状は、自覚症状として両手指、右足部にしびれ感、右腸骨部、左上腕に痛みがあり、他覚症状として肩関節の運動制限(軽度)があるほか、右鎖骨及び左上腕には固定のための金属がいれられている状態であること、現在でも原告は身体の痛みが軽快せず、湿布薬を常用しているほか、両手指のしびれから物を落すことが多いうえ、疲労し易く、原告の保険外務員としての能率も相当低下していること、原告は、本件事故後、自賠責保険に被害者請求をしたところ、原告の後遺障害は後遺障害別等級表の一二級一二号に該当するものと判定され、保険金が支払われていること、原告は、苫小牧市立総合病院に昭和五六年八月三一日までの治療費(文書料を含む)として金一八八万七七八〇円を支払つたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  治療費及び文書料

右認定の事実によれば、原告が苫小牧市立総合病院に支払つた治療費、文書料の合計金一八八万七七八〇円は、本件事故による原告の損害であることは明らかである。

3  付添看護料及び家事世話料

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし五によれば、原告は、入院当初の昭和五六年六月六日、七日、一七日から一九日までの五日間、杉本紀美子の付添看護を受け、その報酬として一日四〇〇〇円合計金二万円を支払つたこと、また原告は病弱な夫と高校生の息子一人の三人家族であるところ、本件事故のため昭和五六年六月六日から同年九月八日までの九五日間及び昭和五六年一一月一〇日から昭和五七年二月二七日までの一一一日間原告の妹である今本花子に家事を依頼し、同女に一日当り四二二〇円(内二二〇円はバス代)、合計八六万九三二〇円を支払つたことが認められる。しかるところ、前記1でみた原告の傷害の程度に鑑みれば、入院当初の五日間程度の付添はやむをえないものと思料されるから、このために支払つた金二万円は本件事故の損害と解するのが相当である。次に原告が今本に支払つた家事世話料につきみるに、原告の家族構成からみて、家事の一部を今本に依頼せざるをえなかつたとしても、それは食事の世話程度に過ぎなかつたと考えられるから、一日四〇〇〇円の報酬は多きに過ぎ、一日二〇〇〇円の程度で本件事故と相当因果関係にある損害と解するのが相当である。したがつて家事世話料としては金四五万七三二〇円(一日二〇〇〇円にバス代二二〇円を加算した二二二〇円の二〇六日分)をもつて本件事故の損害と解する。

4  入院雑費

前記認定したところによれば、原告の入院日数は一五三日であり、この間の入院雑費としては、一日七〇〇円と認めるのが相当であるから、その合計は金一〇万七一〇〇円である。

5  通院交通費

前記認定したところによると、原告が本件事故後、昭和五七年七月二六日に至るまで苫小牧市立総合病院に通院した実日数は一二七日であり、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三〇号証の一ないし六二によれば、原告は、右通院期間中、自宅から右病院への往復をタクシーを利用せざるをえなかつたこと、右タクシー代は片道概ね五五〇円であり、昭和五七年七月二六日までに少なくとも金一三万一四五〇円を要したことが認められ、右によれば、通院交通費として要した金一三万一四五〇円は本件事故による損害と認めるのが相当である。

6  休業損害

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、原告は、本件事故当時明治生命苫小牧支社の保険外務員として稼働しており、本件事故前の昭和五五年四月から昭和五六年三月までの一年間の収入は二二二万五七二二円であつたことが認められる。そうしてみると原告が本件事故の翌日(事故当日は事故の発生した時間に鑑み算入しない。)から症状が固定した昭和五七年七月二六日までの四一五日間の休業損害は次の算式により金二五三万〇六一五円となる。

2,225,722÷365×415=2,530,615

7  逸失利益

前記1で認定したところによると、原告には本件事故の傷害による後遺障害があり、その程度は後遺障害別等級表の一二級一二号に該当するものと解されるところ、原告の職種、年齢、後遺障害の内容等に照らすと、症状固定時より一〇年間、労働能力を一四パーセント喪失したものと解するのが相当である。したがつて原告の年収を二二二万五七二二円(前項参照)とし、ホフマン係数により中間利息を控除すると、次の算式により原告の逸失利益は金二四七万五六三九円となる。

2,225,722×0.14×7.9449=2,475,639

8  慰藉料

前記の原告の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺障害の内容・程度等本件にあらわれた諸般の事情を勘案すると、原告が本件事故により受けた精神的苦痛を慰藉するには金三二〇万円をもつてするのが相当である。

9  被告の回後

以上の弁護士費用を除く原告の損害額を合計すると、金一〇八〇万九九〇四円となるところ、原告が本件事故に関して自賠責保険等から金四七七万円の支払を受けたことは原告の自認するところであるからこれを控除すると残額は金六〇三万九九〇四円となる。

10  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起、遂行を原告代理人らに委任したことは本件記録上明らかであり、本件事件の難易、訴額、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は金六〇万円とするのが相当である。

四  以上によれば、原告の本訴請求は、被告らが各自に対し、金六六三万九九〇四円と右金額から弁護士費用を控除した内金六〇三万九九〇四円に対する昭和五六年六月七日(本件事故発生の翌日)から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘)

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